イールドカーブと株価の関係 その2

前回のスポットレポート『イールドカーブと株価の関係』では、イールドカーブの形状と株価指数のリターンの関係を調べてみました。今回のレポートでは第2弾という事で、グロース・バリュー・小型各種指数及びその他アセットクラスのリターンの関係をまとめます。
イールドカーブの状態については前回のレポートと同じ分析方法を用いています。

表1に各種アセットの年率換算したリターンの単純平均ををまとめました。S&P500指数はベア・スティープニングよりもブル・フラットニング時の方がリターンが大きいことは前回にも触れましたが、S&P500バリュー指数及びS&P500グロース指数は教科書通りベア・スティープニング時のリターンが最も大きくなります。一方で、NASDAQ総合指数と小型株指数であるラッセル2000指数はベア・フラットニング時の上昇が最も高くなっています。
日本市場についても、日経平均、TOPIXバリュー/グロース、東証マザーズ、東証REIT指数全てベア・スティープニング時に最もパフォーマンスがよく、ブル・スティープニング時が最悪のパフォーマンスとなっています。
表2にはリターンの標準偏差で測ったリスクを年率完済した数値をまとめてあります。金スポット価格とドル円を除くすべてのアセットがブル・スティープニング時に最もボラタイルとなっており、イールドカーブが同状態になった時のリスクの高さがわかります。

表1. 米国イールドカーブの形状ごとの各種アセットのリターン

表2. 米国イールドカーブの形状ごとの各種アセットのリスク

さて、アセット毎にデータの取得可能な期間が異なりますので、比較のため、最も指数算出開始の遅いTOPIXグロース/バリュー指数の2009/2/13以降のデータのみで同様の表を作成しました。
2009年以降のデータでは、株価指数については全てベア・スティープニング時のパフォーマンスが最も良いという結果となりました。
足元、米国長期金利の上昇に伴いNASDAQ指数に代表される高成長グロース銘柄の下落が話題となっていますが、ベア・スティープニング時のS&P500バリュー指数のリターンが単純平均で年率28.83%のリターンであるのに対して、S&P500グロース指数は同24.88%と約4%も劣後しています。
日本市場でも同様に、TOPIXバリュー指数の49.22%に対してTOPIXグロース指数は39.68%とこちらも10%弱のパフォーマンスの差が出ており、足元で進行しているバリュー相場と整合的な結果です。
ただし、ベア・スティープニング以外のイールドカーブの形状では、日米ともにグロース>バリューの構図となっており、米国長期金利の上昇が一服したのちには再びグロース株優位の相場が戻ってくるでしょう。

2009年以降のデータでは、金スポット価格のリターンは株価とは対照的にベア・フラットニング時に大きくマイナスとなっています。逆に、金利の低下するブル・フラットニング/ブル・スティープニング時にはリターンがプラスとなっており、安全資産としての特徴を示しています。
銅先物及び原油先物は、ベア・スティープニングの時に最も上昇し、ブル・スティープニング時に最悪のリターンとなるのは株価と同じですが、長期金利が下がってイールドカーブが平坦となるブル・フラットニング時にもマイナスのリターンとなる点が異なります。
ドル円についてもベア・スティープニング時に円安ドル高となり株価の上昇局面と円安局面が重なりますが、最も円高になる傾向を示すのは、株価の最悪期であるブル・スティープニングではなく、ブル・フラットニング時である点に注意が必要です。

表3. 米国イールドカーブの形状ごとの各種アセットのリターン(2009/2/13~)

表4. 米国イールドカーブの形状ごとの各種アセットのリスク(2009/2/13~)

ここまでの分析では、米国国債のイールドカーブの形状で各種アセットのリターンを分けてきましたが、ここで、日本市場のアセットについては日本の国債市場のイールドカーブを見た方がよいのではないか?と疑問も湧きます。
2009年以降のデータで、日本国債市場のイールドカーブで分けたリターンと米国イールドカーブでのそれらの比較表が以下になります。株価指数については、債券市場が弱いベア相場で株価が上昇、逆に債券市場が買われるブル相場で株価が弱いという傾向は同じですが、東証REIT指数については、日米イールドカーブへの反応が大きく異なります。
日本市場でベア・スティープニング(長期金利上昇)時には、年率▲23.96%と米国の+26.50%とは真逆の反応となっており、直接的に円金利のみ影響を与えるアセットについては米国ではなく、当然ながら日本市場でのイールドカーブに着目する方がよさそうです。

表5. 日米イールドカーブの形状ごとの日本株のリターン比較

表6. 日米イールドカーブの形状ごとの日本株のリスク比較

当レポートでの分析をもとに今後の展開を考えると、足元の米国長期金利上昇が一服したのちには、
1. 上昇し過ぎた金利が反落 = ブル・フラットニング
2. 長期金利が高止まりしたままFEDの利上げが始まる ⇒ ベア・フラットニング
というパターンが考えられます。

表3の傾向をまとめると、それぞれ、
1. グロース>バリュー、米株上昇/日本株反落、円高、コモディティ安、金上昇
2. グロース>バリュー、日米株価上昇、円安継続、コモディティ上昇、株価指数ボラティリティ(リスク)低下
となり、いずれのパターンでもグロース株が再び優位になることには変わりませんが、為替を通じた日米株価のパフォーマンスに違いが出るなど注意が必要です。

追記:イールドカーブと株価の関係 その3
https://kosei.co.jp/wordpress/?p=13654


 本資料は、情報提供のみを目的として作成したもので、いかなる有価証券等の売買の勧誘を目的としたものではありません。また、一般的あるいは特定の投資助言 を行うものでもありません。本資料は、信頼できると判断した情報源から入手した情報・データ等をもとに作成しておりますが、これらの情報・データ等また本資料の内容の正確性、適時性、完全性等を保証するものではありません。情報が不完全な場合または要約されている場合もあります。本資料に掲載されたデー タ・統計等のうち作成者・出所が明記されていないものは、当社により作成されたものです。本資料に掲載された見解や予測は、本資料作成時のものであり予告 なしに変更されます。運用方針・資産配分等は、参考情報であり予告なしに変更されます。過去の実績は将来の成果を予測あるいは保証するものではありません。
光世証券株式会社
金融商品取引業者 近畿財務局長(金商)第14号 加入協会/日本証券業協会

イールドカーブと株価の関係

2020年8月に0.50%だった米国10年債利回りは、コロナ禍終了後の国債需給悪化や景気回復、インフレ懸念等から上昇を続け、2021年には3月8日には一時1.60%まで上昇しました。2月からの長期金利上昇の加速で、NASDAQは2月中旬につけた高値から10%超下落となり、株式市場でも長期金利の動向に注目が集まっています。
当ブログでは過去に、長短金利差と株価の動きの関係は?と題してスポットレポートを出していますが、改めて、より詳細な分析を行ってみたいと思います。

(2017.11.15)長短金利差と株価の動きの関係は?
https://kosei.co.jp/wordpress/?p=5235

一般的に、景気の回復局面で長期金利は上昇すると言われますが、より細かくみると、長短金利差などイールドカーブの形状から4つのステージに分類されます。

イールドカーブの傾きに関しては2年-10年債利回りの長短金利差を用いる事もありますが、ここでは各年限の全体的な傾きを見るためNelson-Siegel モデルを使って、金利の水準とイールドカーブの傾きのパラメータを推計しました。
モデルにより推定した金利水準、イールドカーブの傾き、それと株価(S&P500)の推移が下記チャートになります。チャート内の色分けは上記表に従っています。

チャートを見ると、イールドカーブの形状はテキスト通りの4パターンが順番に訪れるのではなく、赤(ベア・フラットニング=景気拡大局面)青(ブル・フラットニング=景気減速局面)の次に再び、赤(ベア・フラットニング=景気拡大局面)が訪れるなど一様ではありません。
債券市場も株式市場と同様に期待/予想をもとに相場を形成しているため、例えば2017年のFRB利上げ時のように、先走って上昇した長期金利がいざ利上げが始まると値動きが停滞するような局面が出てくるためです。

そのため、米国市場では、赤(ベア・フラットニング=景気拡大局面)の局面ではなく、青(ブル・フラットニング=景気減速局面)で、株価の上昇が著しいものとなっています。
一方、最もパフォーマンスが悪いのは灰色(ブル・スティープニング=景気後退局面)で、昨年3月のコロナショックやリーマンショックなどは灰色の時に発生しています。

同様の分析を日本国債と日経225に対して行ったものが次のチャートになります。
こちらも米国と同様に赤⇒青⇒再び赤などとイールドカーブの形状は行ったり来たりと変化していますが、日経平均のリターンは赤(ベア・フラットニング=景気拡大局面)が最も高くなっています。
米国とは対照的に、青(ブル・フラットニング=景気減速局面)での株価パフォーマンスが最も悪く、米国に比べてテキスト通りの結果となっています。

日米の株価のリターンを表にまとめました。米国は1962年1月末から、日経225は1995年3月末からそれぞれ期初を100として計算しています。

さて、当レポートではNelson-Siegelモデルというやや複雑な手法を用いてイールドカーブの形状を分類しましたが、より手軽な方法として2年債利回りと10年債利回りを用いることもできます。

また、長短金利差が逆転すると(逆イールドになると)株価が急落するというアノマリーがありますが、実際には下落するまで半年~2年と長いあやふやな期間があります。そのため、逆イールド(フラット)となったカーブが短期金利の主導で下落(ブル・スティープニング)し始めると、急落の危険サインと再解釈しなおした方がより確度が上がるものと思われます。

最後に冒頭の話に戻ると、イールドカーブの形状に対する株価の反応は、日米で多少の違いはありますが、いずれにせよ長期金利の上昇がそのまま株安トレンドに直結するということはありませんので、長期金利上昇に伴う足元の株価停滞も一時的なものと考えます。

追記:
イールドカーブと株価の関係 その2
https://kosei.co.jp/wordpress/?p=13621

イールドカーブと株価の関係 その3
https://kosei.co.jp/wordpress/?p=13654


 本資料は、情報提供のみを目的として作成したもので、いかなる有価証券等の売買の勧誘を目的としたものではありません。また、一般的あるいは特定の投資助言 を行うものでもありません。本資料は、信頼できると判断した情報源から入手した情報・データ等をもとに作成しておりますが、これらの情報・データ等また本資料の内容の正確性、適時性、完全性等を保証するものではありません。情報が不完全な場合または要約されている場合もあります。本資料に掲載されたデー タ・統計等のうち作成者・出所が明記されていないものは、当社により作成されたものです。本資料に掲載された見解や予測は、本資料作成時のものであり予告 なしに変更されます。運用方針・資産配分等は、参考情報であり予告なしに変更されます。過去の実績は将来の成果を予測あるいは保証するものではありません。
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日経平均30,000円、バブルじゃないけどスピード違反?

  • コロナ禍からの回復を織り込めばバリュエーションは行き過ぎた割高とはいえない
  • 昨年からの10月からの株価急騰はスピード違反で日銀の赤信号が点灯する可能性
  • 3月19日の日銀政策決定会合ではETFやREITの購入で大きな変更があり得るので注意
  • 仮に金融政策の部分的な変更およびそれに伴う混乱があったとしても、大規模な緩和/株価の上昇トレンドは継続

2021年2月15日に日経平均株価は30年と半年ぶりに30,000円台を回復しました。
紙面では「実体経済と乖離した株高」「危うい官製相場」と、危惧する記事が多く、株高を喜ぶよりは過去のバブル崩壊後の長期低迷が再び起こることへの懸念が強いようです。

「実体経済から乖離した株高」と言うもの、実体経済として捉えられている数値は過去の経済活動の実績値であるのに対し、株価は将来の企業・経済活動を予測してバリューションが行われます。
現在の株価を単純にPERなどで見ると確かに割高なバリューションになりますが、コロナ禍で打撃を受けた企業の業績回復を見込んだEPSで計算すると、28595円~32264円のレンジが想定され、日経平均30,000円は決してバブルとは言い切れません。

また、企業全体の収益について、2019年末の時点で1989年の1.44倍まで増加していることからも1989年のバブル当時と比べて株価が相対的に割安であることがわかります。過去のバブル時には、QレシオやPSRなど、PERで正当化できない株価水準を説明する新しい指標が出てきました。今後、日経平均が50,000円、60,000円となり、そのような新しい指標が出てくればバブルと言えるでしょう。

参考:ダウ30,000ドルの次は日経30,000円 – TRADING FLOOR (kosei.co.jp)
https://kosei.co.jp/wordpress/?p=12904

さて、89年のバブルは、日銀の利上げと政府の土地関連融資への総量規制によって崩壊しました。当ブログで株価はフェアバリューと言ったところで、日銀がバブルだと考えているならばなんらかの引締めが行われる可能性もあります。

「バブルは崩壊して初めてバブルと分かる」とはITバブル崩壊後の2002年にグリーンスパンFRB議長の発言でしたが、黒田日銀総裁もこれを踏襲し「株価が行き過ぎかどうかは、後にならないとわからない」と2/16の衆議院財務金融委員会で答弁しており、現状の株価についてバブルかどうか言明は避けています。

しかしながら、日銀は毎年4月と10月に「金融システムレポート」を公表しており、そこでは、「金融活動の過熱による金融面の不均衡」を把握するツールとしてヒートマップが公表されています。
直近の2020年10月号では、M2成長率や不動産業向け貸出の対GDP比率など、金融緩和による潤沢な資金供給に関する指標が赤いシグナルとなっていますが、供給された資金の向かう先である投資活動や株価など資産価格はグリーンのままです。

日銀:金融システムレポート(2020年10月号)より
https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr201022a.pdf

この株価のシグナルはTOPIX の片側HPフィルターで算出したトレンドからの乖離が1.5σを超えると赤信号となります。HP(ホドリック=プレスコット)フィルターなど聞き慣れない手法が出てきますが、マーケット参加者のイメージしやすいもので置き換えるとボリンジャーバンドが似通ったものとイメージしやすいでしょう。

日銀:『金融活動指標』の見直しについて
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2014/data/wp14j07.pdf

日銀のレポートでは4半期データを用いてヒートマップを作成していますが、ここで足元の株高を反映させるため、週次データで一部の指標のヒートマップで作成してみました。なお、ヒートマップの色付けはボリンジャーバンドの2.5σを超えたらレッドサイン-2.5σを下回ったら青としています。
日経平均が30000円を超えた足元の株価水準を見ると、日経平均は過熱を示す赤色となっており、また、日銀が株価の指標としているTOPIXも赤色となっています。このことは、株価は金融活動の過熱状態にあるにも関わらず、金融緩和のためにETFを購入するというジレンマを意味します。

現状のETF購入政策について、先の財務金融委員会にて、黒田総裁は「やめる・出口を考える状況ではない」「メリハリのある柔軟な買い入れを行っている」としながらも「(3月会合の) 政策点検の中で何ができるか検討」と変更を示唆しており、金融システムレポートで過熱状態を示すことになりそうな株式(ETF)の購入継続を敬遠する可能性があります。
上述のボリンジャーバンドバンドで考えると、株価が+2.5σ以上の時はETFの購入を0にするなどラジカルな運用変更も考えられますので、事前の観測報道など含め、3月19日会合の波乱には注意が必要です。

ただし、本年年初に出された非常事態宣言の経済活動への悪影響、また、日銀が掲げている物価目標への到達が非常に遠いことを考えると、単純にETFの購入額/購入頻度の減少とはせず、入れ替わりにその他の緩和策を増額などが考えられ、大規模な緩和政策は自体は全体として継続となると思われます。
仮にETF購入政策の変更により株価の下落あっても、一時的な需給ショックにとどまり、金融政策・財政政策に後押しされた経済の回復、景況感向上による株価上昇という長期トレンドは変わらないと考えられます。


 本資料は、情報提供のみを目的として作成したもので、いかなる有価証券等の売買の勧誘を目的としたものではありません。また、一般的あるいは特定の投資助言 を行うものでもありません。本資料は、信頼できると判断した情報源から入手した情報・データ等をもとに作成しておりますが、これらの情報・データ等また本資料の内容の正確性、適時性、完全性等を保証するものではありません。情報が不完全な場合または要約されている場合もあります。本資料に掲載されたデー タ・統計等のうち作成者・出所が明記されていないものは、当社により作成されたものです。本資料に掲載された見解や予測は、本資料作成時のものであり予告 なしに変更されます。運用方針・資産配分等は、参考情報であり予告なしに変更されます。過去の実績は将来の成果を予測あるいは保証するものではありません。
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2021年、日経30000円超えに向けて

2020年は新型コロナウィルス感染症のパンデミックによる株式市場の暴落から巨額の金融緩和・財政出動による株価の急回復と激動の一年でした。2020年12月現在で、米英カナダで既にワクチン接種が始まっており、来年2021年には本格的なワクチン接種の拡大、新規感染者数の減少、経済活動の正常化という良い流れになることを期待します。

株式市場はリーマンショック後のと同様に回復軌道に乗っていますが、2021年には経済活動の正常化に伴い行き過ぎたDXへの是正が起こるのではないかと考えられます。2000年ドットコムバブルの時代には、在庫循環の無いニュー・エコノミー、オールドメディアの駆逐など言われましたが、それから20年経った現在でも景気変動や新聞は健在です。テクノロジーの発展は早いですがそれを使う人間の国民全体としての発展は思ったほど早くないのかもしれません。

世界各国で巨額の金融緩和が継続されることから、DX銘柄の調整に関しては、ハイテク株の下げよりも出遅れセクター(航空、鉄道、資源など)への見直し買いという形で現れる可能性が高いと考えます。

新型コロナウィルスワクチン普及後の株価市場について
https://kosei.co.jp/wordpress/?p=13064

年明け1月にはバイデン新大統領の就任式があり、グリーン・ニューディール政策に再び注目が集まりそうです。また、日本においても、菅政権はカーボンニュートラル政策を打ち出しており、各国の政策の下、SDGs銘柄の続伸に期待します。

さて、リーマンショック後は1年のリバウンド期間後、2010年は上昇一服、やや乱高下する年となりましたが、今回のコロナショックでは当時をはるかに上回る20兆ドル(2072兆円)以上もの財政・金融支援がなされていることから、引き続き株価は上昇トレンドにあると考えます。

一方で、これらの巨額の資金は国債発行で賄われるため、財政悪化懸念や金融緩和による通貨安などが懸念されますが、為替レートは2国間通貨の相対価値を表しており、各国ともに出口の見えないレベルで大規模に緩和している状況では変動は限定的になると思われます。

この大規模緩和の影響は、他国通貨ではなく資源価格へ反映される可能性はあると思われ、リーマンショック後の資源価格の上昇と比べると、コロナ禍での資源価格の上昇はまだ控えめであることからも、2021年に注目すべきはコモディティの価格動向ではないかと思われます。

2020年4月のWTI原油先物価格がマイナスへ暴落した事件は、商品先物市場における在庫キャパシティの問題を明らかにしました。新型コロナワクチンの普及と経済活動の本格的な再稼働により、在庫減少速度が速まれば、商品先物市場でも在庫を意識することのない買いが先行し価格急騰という流れになるかもしれません。

2020年のセクター別年初来リターンを見ると、陸運(鉄道)、空運などコロナ禍の影響の大きかったセクターの他、鉱業、石油・石炭などのコモディティ関連銘柄の下げも大きかったですが、2021年には新型コロナワクチンの普及へ向けて、これらのセクターが上昇し、株価指数を押し上げていくと期待できます。
当ブログ記事で紹介した、いいとこどりの予想EPS(詳細は以下リンク先参照)は足元で1704円まで上昇しており、これをもとに2021年の日経平均レンジを計算すると24,000~31,000円となります。
2021年には是非、日経平均30,000円超えを見たいものです。

ダウ30,000ドルの次は日経30,000円
https://kosei.co.jp/wordpress/?p=12904

表.2020年セクター別年初来リターン(~12/25)

最後にリスク要因ですが、商品価格の上昇は最終的にCPIの上昇という形で反映されますので、長期国債への影響も懸念されます。しかしながら、同様の議論は、2008年リーマンショック後も繰り広げられていたものの、結局は米国においても2%をわずかに超えるインフレにとどまりました。

インフレの上昇局面で国債下落はあると思われるものの、悲観論者の期待するような暴落とはならず、中銀による買支えで長期金利の上昇は限定的にとどまると思われます。インフレ懸念の下ではむしろ相対的に金に再び注目が集まる可能性の方が高いと考えます。

その他のリスクでは、2022年4月に東証は市場再編を実施しますが、それに先立ち、2020年6月を基準として、上場企業の新たな市場への割り振りを決めます。この変更は、関連する指数(TOPIX、マザーズ、業種別)および指数へ連動するパッシブ運用へ大きな影響を与え、特に、東証一部小型株へ逆風となります。

また、年末には代表的な金利指標Libor公表停止が控えており、年後半にはこういった制度面での変更がリスク要因となるかもしれません。


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新型コロナウィルスワクチン普及後の株価市場について

  • 新型コロナウィルスワクチンの接種拡大により、渡航規制解除前からラリーの可能性
  • コロナ禍以前の株価/業績水準を考えると航空株が割安
  • 財務体質の面からも公募実施済みの航空株に妙味

2020年は新型コロナウィルス感染症の世界的な拡大、これに伴う経済活動への抑止と株価暴落、巨額の金融緩和・財政出動による株価の急回復、と激動の1年でした。2020年12月現在でも、日本では感染第3波の中、飲食店への営業時間短縮要請など為されている状況です。

今年1年を東証33業種別のパフォーマンスで比べると、巣ごもり需要を捉えたその他製品(任天堂)や、リモートワーク関連での情報・通信業、クラウド需要増加が後押しした精密機械(半導体関連)などwithコロナ銘柄上昇した一方、空運業や陸運(鉄道)業などコロナ禍に伴う影響の大きいセクターは値下がりしました。

ところで、2009年、強毒性鳥インフルエンザが発生した際に公表された対策資料には、100年前のスペイン風邪パンデミック時の対応が書かれています。興味深いことに、当時の米国でも劇場や映画館といった人の密集する施設の閉鎖措置が取られており、現在のコロナ禍と重なります。
逆説的になりますが、スペイン風邪パンデミック期に閉鎖された劇場や映画館は、コロナ禍以前の2019年でも依然として存続しており、人は娯楽無しでは生きられないものと痛感します。
ツーリズムを含む、ビジネスとしての娯楽はこれからも生きながらえていくことは間違いありません。

ソース:日銀:鳥インフルエンザから新型インフルエンザ大流行へ
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2009/data/fsc0902a2.pdf

さて、そのツーリズムですが、旅客数の急激な落ち込みから元の水準へ回復するまで、2003年SARS感染拡大時には11か月、2001年の9.11同時多発テロ後には14か月、2008年リーマンショック後には19か月を要しています。
今回のコロナ禍では、国連世界観光連盟はさらに厳しく以前の水準へ戻るまで30カ月から48か月かかると想定しています。ただし、国連世界観光連盟のレポートでも述べられている通り、回復は、1. 旅行者の安心感、2. 各国政府の渡航規制の撤廃度合い、3. 経済状態、に依存するためシナリオは流動的であるとしています。

2020年12月現在、ファイザー及びモデルナの新型コロナウィルスワクチンの接種が開始され始めており、ワクチンが効果を発揮し新規感染者が減少してくれば1. 旅行者は安心して旅客機などの使用ができそうです。また、ワクチンの効果と感染者の減少が確認されれば、各国とも渡航規制を漸次撤廃していくもの思われます。3. 経済状態に関しては、財政出動により下支え効果もあり、2021年の観光業界には明るい兆しが見えてきそうです。


• Scenario 1: recovery in 2½ years (mid-2023)
• Scenario 2: recovery in 3 years (end of 2023)
• Scenario 3: recovery in 4 years (end of 2024)

ソース:UNWTO World Tourism Barometer and Statistical Annex, August/September 2020 (e-unwto.org)
https://www.e-unwto.org/doi/epdf/10.18111/wtobarometereng.2020.18.1.5

株式市場では、実際のイベントに対して先回りして株価が動きます。上述の観光業界の回復過程を考えると、ワクチン接種の拡大、新規感染者数の減少で株価は上昇し始め、政府の渡航規制緩和でSell the factとなるのはよく有り得るシナリオです。

インバウンドに沸いた空運・鉄道株を見ると、小田急(9007)や京王電鉄(9008)など既にコロナ禍以前の高値を抜いている銘柄もある一方、ANA(9202)やJR九州(9142)のように3月安値からリカバリーできていない銘柄もあり、ワクチン接種拡大に伴いこれら出遅れ銘柄への見直し買いが期待できそうです。
2020.3月期までの5年間の平均EPS、平均PERと株価水準を、比較した表2を見ると、コロナ禍以前への水準回復でもっとも上昇余地があるのは次いで東急(9005)、JR九州(9142)、JAL(9201)となりました。
あべのハルカス建造費は全て社債と借入で賄うと言いながら大型増資で借金を返済した近鉄のように、鉄道会社については手元資金の具合によっては公募増資の可能性もあることを考えると、既に大規模な増資をしており財務体質に余裕ができているJALは、2012年増資後からのANA株価上昇のように、ワクチン後の株価回復に期待ができます。

表1. 鉄道・空運株のコロナ前後の株価水準

表2. 鉄道・空運株のコロナ以前の5年平均EPS、PER、株価


 本資料は、情報提供のみを目的として作成したもので、いかなる有価証券等の売買の勧誘を目的としたものではありません。また、一般的あるいは特定の投資助言 を行うものでもありません。本資料は、信頼できると判断した情報源から入手した情報・データ等をもとに作成しておりますが、これらの情報・データ等また本資料の内容の正確性、適時性、完全性等を保証するものではありません。情報が不完全な場合または要約されている場合もあります。本資料に掲載されたデー タ・統計等のうち作成者・出所が明記されていないものは、当社により作成されたものです。本資料に掲載された見解や予測は、本資料作成時のものであり予告 なしに変更されます。運用方針・資産配分等は、参考情報であり予告なしに変更されます。過去の実績は将来の成果を予測あるいは保証するものではありません。
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