- 新型コロナウィルスワクチンの接種拡大により、渡航規制解除前からラリーの可能性
- コロナ禍以前の株価/業績水準を考えると航空株が割安
- 財務体質の面からも公募実施済みの航空株に妙味
2020年は新型コロナウィルス感染症の世界的な拡大、これに伴う経済活動への抑止と株価暴落、巨額の金融緩和・財政出動による株価の急回復、と激動の1年でした。2020年12月現在でも、日本では感染第3波の中、飲食店への営業時間短縮要請など為されている状況です。
今年1年を東証33業種別のパフォーマンスで比べると、巣ごもり需要を捉えたその他製品(任天堂)や、リモートワーク関連での情報・通信業、クラウド需要増加が後押しした精密機械(半導体関連)などwithコロナ銘柄上昇した一方、空運業や陸運(鉄道)業などコロナ禍に伴う影響の大きいセクターは値下がりしました。
ところで、2009年、強毒性鳥インフルエンザが発生した際に公表された対策資料には、100年前のスペイン風邪パンデミック時の対応が書かれています。興味深いことに、当時の米国でも劇場や映画館といった人の密集する施設の閉鎖措置が取られており、現在のコロナ禍と重なります。
逆説的になりますが、スペイン風邪パンデミック期に閉鎖された劇場や映画館は、コロナ禍以前の2019年でも依然として存続しており、人は娯楽無しでは生きられないものと痛感します。
ツーリズムを含む、ビジネスとしての娯楽はこれからも生きながらえていくことは間違いありません。
ソース:日銀:鳥インフルエンザから新型インフルエンザ大流行へ
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2009/data/fsc0902a2.pdf
さて、そのツーリズムですが、旅客数の急激な落ち込みから元の水準へ回復するまで、2003年SARS感染拡大時には11か月、2001年の9.11同時多発テロ後には14か月、2008年リーマンショック後には19か月を要しています。
今回のコロナ禍では、国連世界観光連盟はさらに厳しく以前の水準へ戻るまで30カ月から48か月かかると想定しています。ただし、国連世界観光連盟のレポートでも述べられている通り、回復は、1. 旅行者の安心感、2. 各国政府の渡航規制の撤廃度合い、3. 経済状態、に依存するためシナリオは流動的であるとしています。
2020年12月現在、ファイザー及びモデルナの新型コロナウィルスワクチンの接種が開始され始めており、ワクチンが効果を発揮し新規感染者が減少してくれば1. 旅行者は安心して旅客機などの使用ができそうです。また、ワクチンの効果と感染者の減少が確認されれば、各国とも渡航規制を漸次撤廃していくもの思われます。3. 経済状態に関しては、財政出動により下支え効果もあり、2021年の観光業界には明るい兆しが見えてきそうです。
• Scenario 1: recovery in 2½ years (mid-2023)
• Scenario 2: recovery in 3 years (end of 2023)
• Scenario 3: recovery in 4 years (end of 2024)
ソース:UNWTO World Tourism Barometer and Statistical Annex, August/September 2020 (e-unwto.org)
https://www.e-unwto.org/doi/epdf/10.18111/wtobarometereng.2020.18.1.5
株式市場では、実際のイベントに対して先回りして株価が動きます。上述の観光業界の回復過程を考えると、ワクチン接種の拡大、新規感染者数の減少で株価は上昇し始め、政府の渡航規制緩和でSell the factとなるのはよく有り得るシナリオです。
インバウンドに沸いた空運・鉄道株を見ると、小田急(9007)や京王電鉄(9008)など既にコロナ禍以前の高値を抜いている銘柄もある一方、ANA(9202)やJR九州(9142)のように3月安値からリカバリーできていない銘柄もあり、ワクチン接種拡大に伴いこれら出遅れ銘柄への見直し買いが期待できそうです。
2020.3月期までの5年間の平均EPS、平均PERと株価水準を、比較した表2を見ると、コロナ禍以前への水準回復でもっとも上昇余地があるのは次いで東急(9005)、JR九州(9142)、JAL(9201)となりました。
あべのハルカス建造費は全て社債と借入で賄うと言いながら大型増資で借金を返済した近鉄のように、鉄道会社については手元資金の具合によっては公募増資の可能性もあることを考えると、既に大規模な増資をしており財務体質に余裕ができているJALは、2012年増資後からのANA株価上昇のように、ワクチン後の株価回復に期待ができます。
表2. 鉄道・空運株のコロナ以前の5年平均EPS、PER、株価