- コロナ禍からの回復を織り込めばバリュエーションは行き過ぎた割高とはいえない
- 昨年からの10月からの株価急騰はスピード違反で日銀の赤信号が点灯する可能性
- 3月19日の日銀政策決定会合ではETFやREITの購入で大きな変更があり得るので注意
- 仮に金融政策の部分的な変更およびそれに伴う混乱があったとしても、大規模な緩和/株価の上昇トレンドは継続
2021年2月15日に日経平均株価は30年と半年ぶりに30,000円台を回復しました。
紙面では「実体経済と乖離した株高」「危うい官製相場」と、危惧する記事が多く、株高を喜ぶよりは過去のバブル崩壊後の長期低迷が再び起こることへの懸念が強いようです。
「実体経済から乖離した株高」と言うもの、実体経済として捉えられている数値は過去の経済活動の実績値であるのに対し、株価は将来の企業・経済活動を予測してバリューションが行われます。
現在の株価を単純にPERなどで見ると確かに割高なバリューションになりますが、コロナ禍で打撃を受けた企業の業績回復を見込んだEPSで計算すると、28595円~32264円のレンジが想定され、日経平均30,000円は決してバブルとは言い切れません。
また、企業全体の収益について、2019年末の時点で1989年の1.44倍まで増加していることからも1989年のバブル当時と比べて株価が相対的に割安であることがわかります。過去のバブル時には、QレシオやPSRなど、PERで正当化できない株価水準を説明する新しい指標が出てきました。今後、日経平均が50,000円、60,000円となり、そのような新しい指標が出てくればバブルと言えるでしょう。
参考:ダウ30,000ドルの次は日経30,000円 – TRADING FLOOR (kosei.co.jp)
https://kosei.co.jp/wordpress/?p=12904
さて、89年のバブルは、日銀の利上げと政府の土地関連融資への総量規制によって崩壊しました。当ブログで株価はフェアバリューと言ったところで、日銀がバブルだと考えているならばなんらかの引締めが行われる可能性もあります。
「バブルは崩壊して初めてバブルと分かる」とはITバブル崩壊後の2002年にグリーンスパンFRB議長の発言でしたが、黒田日銀総裁もこれを踏襲し「株価が行き過ぎかどうかは、後にならないとわからない」と2/16の衆議院財務金融委員会で答弁しており、現状の株価についてバブルかどうか言明は避けています。
しかしながら、日銀は毎年4月と10月に「金融システムレポート」を公表しており、そこでは、「金融活動の過熱による金融面の不均衡」を把握するツールとしてヒートマップが公表されています。
直近の2020年10月号では、M2成長率や不動産業向け貸出の対GDP比率など、金融緩和による潤沢な資金供給に関する指標が赤いシグナルとなっていますが、供給された資金の向かう先である投資活動や株価など資産価格はグリーンのままです。
日銀:金融システムレポート(2020年10月号)より
https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr201022a.pdf
この株価のシグナルはTOPIX の片側HPフィルターで算出したトレンドからの乖離が1.5σを超えると赤信号となります。HP(ホドリック=プレスコット)フィルターなど聞き慣れない手法が出てきますが、マーケット参加者のイメージしやすいもので置き換えるとボリンジャーバンドが似通ったものとイメージしやすいでしょう。
日銀:『金融活動指標』の見直しについて
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2014/data/wp14j07.pdf
日銀のレポートでは4半期データを用いてヒートマップを作成していますが、ここで足元の株高を反映させるため、週次データで一部の指標のヒートマップで作成してみました。なお、ヒートマップの色付けはボリンジャーバンドの2.5σを超えたらレッドサイン-2.5σを下回ったら青としています。
日経平均が30000円を超えた足元の株価水準を見ると、日経平均は過熱を示す赤色となっており、また、日銀が株価の指標としているTOPIXも赤色となっています。このことは、株価は金融活動の過熱状態にあるにも関わらず、金融緩和のためにETFを購入するというジレンマを意味します。
現状のETF購入政策について、先の財務金融委員会にて、黒田総裁は「やめる・出口を考える状況ではない」「メリハリのある柔軟な買い入れを行っている」としながらも「(3月会合の) 政策点検の中で何ができるか検討」と変更を示唆しており、金融システムレポートで過熱状態を示すことになりそうな株式(ETF)の購入継続を敬遠する可能性があります。
上述のボリンジャーバンドバンドで考えると、株価が+2.5σ以上の時はETFの購入を0にするなどラジカルな運用変更も考えられますので、事前の観測報道など含め、3月19日会合の波乱には注意が必要です。
ただし、本年年初に出された非常事態宣言の経済活動への悪影響、また、日銀が掲げている物価目標への到達が非常に遠いことを考えると、単純にETFの購入額/購入頻度の減少とはせず、入れ替わりにその他の緩和策を増額などが考えられ、大規模な緩和政策は自体は全体として継続となると思われます。
仮にETF購入政策の変更により株価の下落あっても、一時的な需給ショックにとどまり、金融政策・財政政策に後押しされた経済の回復、景況感向上による株価上昇という長期トレンドは変わらないと考えられます。