- 金の価格変動リスクは、原油はもちろん、株式・REITよりも低いが、同じく安全資産と言われる国債よりも高く、債券・通貨よりは株式の変動率に近い。
- 安全資産と言われるゆえんは、発行体の信用に依存しない価値を有するため。長期的に政府債務の増大と比例して金価格は上昇してきている。
- 近年はETFを通じた投資資金の流入が価格変動に影響を与えている。
7月27日より、大阪取引所にて金先物取引が開始され、長年議論されてきた総合取引所化への第一歩を踏み出すことになります。
足元では新型コロナウィルス感染症の拡大による景気への不安、巨額財政出動による国債増発への需給不安から安全資産として選好され年初来高値を更新している金ですが、どの程度値上がり/値下がりする商品なのかまとめてみました。
2009年1月から2020年6月までの各種アセットの円換算後の日次の騰落率をまとめると、金の価格変動率(リスク)は年率換算で15.57%であり、WTI原油先物108.09%、日経平均22.09%、東証REIT指数20.69%よりも低いです。一方、日本国債2.07%、ドル円為替レート9.44%、米国債4.34%はよりはだいぶ変動率が高くなっています。また、1日当たりの最大下落率も日経平均の▲10.55%とほぼ同じ水準の▲10.58%となっており、安全資産というイメージとは裏腹に、債券・為替よりも株式に近い値動きであることがわかります。
金が安全資産と言われる理由は、価格変動リスクに基づくもではなく、発行体の信用リスクが無いという点です。現在、国際的な基軸通貨となっているのは米国のドルですが、基軸通貨となったのは第2次大戦以降であり、100年にも満たないです。それに対し、金は人類の有史以来、何千年と価値のあるものとして扱われてきました。
国際的な取引では、金価格は1トロイオンス当たりのドル価で表現されます。これは、金と米ドルの相対的な交換レートですので、米ドルの価値が目減りすればドルで評価された金の価格は上がります。
下のチャートは、米ドルが金兌換を廃止したニクソンショック以降の金価格の推移と、米国政府の債務水準の比較です。実際には対GDPでの債務比率や物価指数の影響など細かい要因を考慮する必要がありますが、ここでは単純に、米ドルの信用のプロクシとして政府債務を取り上げました。
長期的には、米国債務の増加するにつれ金価格(ドル建て)も上昇する傾向がります。
2020年7月現在、新型コロナ対策として米国は巨額の財政主導を実施しており、政府債務の大幅な上昇が避けられない状況ですので、金価格も上昇が期待されます。
ただし、あくまでも長期的な関係でありますので、2か月ごとに満期の到来する金先物は限月交代のロールコストの観点からお勧めできません。貴金属店で金現物を購入するか、あるいは満期のない金ETFを購入するのがもっとも合理的です。
さて、長期的な値動きとは別に、短期の変動を見ると、金ETFの影響が大きいことがわかります。米国で上場されている世界最大のSPDRゴールドETFへの資金の流出入と金価格を比較すると、非常にリンクして推移しているのがわかります。景気不安や国債増発不安など、他のアセットの影響がETFを通じ金スポット価格にも連動する仕組みになっており、リスクオフ=金価格上昇という思惑が反映されやすくなっています。
短期のリスクヘッジあるいはスペキュレーションという点では、レバレッジが効き機動性のある金先物に分があるかもしれません。